塚原教授が神奈川大学で講演しました

神奈川大学理学部 生物学分野セミナー

講演タイトル「性ホルモンによって構築される脳の性差 ―性のグラデーションと多様性が生じる仕組みの理解を目指して―」

日時:9月4日(火曜)15:20~16:20

<講演要旨>

脳の性分化の研究のルーツは1959年にPhoenixらが発表した研究に遡る。彼らはモルモットを用いた実験から、周生期に精巣から分泌されるアンドロゲンには脳を雄化させる働きがあることを示し、その後の研究に大きな影響を与えた。21世紀になると、春機発動期の生殖腺から分泌される性ホルモンと性染色体遺伝子も脳の性分化に関与することが明らかになった。これら要因の協調あるいは反発する働きによって、脳の性にグラデーションや多様性が生じるのではないかと想像するが、それを裏付ける証拠は得られていない。最近、私たちは、マウスの視索前野において雄特異的ニューロンを発見した。このニューロンは中脳腹側被蓋野に投射し、性的動機づけ行動を調節する。雄特異的ニューロンの出現には周生期と春機発動期で働くアンドロゲンが必要であり、どちらか一方あるいは両方でアンドロゲンが働かないと出現しない。アンドロゲンの2段階作用による雄特異的ニューロンの出現は、性分化に関わる2つの要因が協調して働くことを示した一例である。本講演では、性分化研究の歴史を踏まえ、私たちの最近の研究知見を紹介する。